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【2024/09/28 22:09 】 |
眩暈2

その時、櫂は生まれて初めて嫉妬心という物を感じた気がした。「僕、先に車に戻っているよ!」櫂は苦し紛れに精一杯そう言った。突如、嫉妬の念が沸いたせいだろうか?息苦しくて一刻も早くこの場を立ち去りたかったのだ。自分一人が車に先に戻っても、まさかこの割り込みの外野男と二人で黙って何処かへ行ってしまうと言う事はないだろうと思っていた。

「待って、私も行く!」思っていたのと違う展開になったが、櫂は内心ホッとした。「俺、いきなり乱入して嫌な思いさせたみたいだな、悪いからもう帰るよ!」何と、目障りな外野男も素直に消えてくれたのだ。そういうことなら、これで、この先は嫉妬に苦しまなくて済むと思った。

その日の夜、幸恵の住むマンションに辿り着くと、さっそく幸恵が今日、箱根の彫刻の森美術館で買い物してきた物を紙袋から出し包みを開いた。すると何時間か前に美術館の絵画ショップで買ったルノワールの小さいポスターと絵画ブロマイドが入った額縁―ゴッホだかモネだか分からないがその辺の作風だ―がそこに現れた。

「僕が払うんだから、もっといっぱい好きなもの買えばよかったのに・・」櫂がそう大見得を切るのは、やはりその頃はまだバブルの終わり頃で羽振りが良かった性だった。それに何より櫂は生まれつき女性が大好きで、女性の喜ぶ顔を見るのが大好きだからお金があればあるだけ女性に使ってしまう所があった。それは、幸恵に対しても例外ではない。

そんなことを思っている矢先だ。突然幸恵の部屋に電話が掛かってきた。それは、しばらく交流の途絶えていた幸恵の知り合いの男からだった。「久しぶりだね!実はさ、俺、この間、何年も前から付き合っている彼女に振られちゃってさ、死のうとしたけど上手く行かなかったよ!」それは驚くべき事実だった。その後、さらに話をよく聞くと、彼女に振られ、自棄になり、死ぬためにとった手段とは、上半身の腹部分に銅版を巻きつけ弱い電流を流したのだという。

「だいじょうぶぅ・・・可愛そう、今ね私の友達着ているんだけど、あなたも今からよかったら来る?」受話器に向かって幸恵がそう言い放った。何と、幸恵はまたしても外野を加える気だ。しかし、今まさに死のうとして精神的に弱りきっている奴を阻害して苛めるほど野暮な性質でもないから、櫂は黙って平然とその話を聞いていた。

しかし、結局、また日を改めて来るということで今から来る話は御破算になった。

電話が終わると櫂は幸恵に促されるまま、さっき包みから出したルノワールの小ポスターをカッコいい形で壁に貼り付ける作業に取り掛かった。「こんな感じでいいかなぁ」「うん、とても良いと思うよ!」何とかポスターを綺麗に壁に貼り付けると幸恵の表情もとても満足そうだった。

それから満足ついでに気をよくして夜食を取ることになった。部屋にある沢山あちこちに散乱したメニューから一つを取り、出前のピザを注文したのだった。―幸恵の部屋はハッキリ言って、お世辞にも綺麗とは言えなかった沢山荷物や洋服が無造作に周囲に投げ散らかされていた―30分か40分するとピザが部屋に届き、さっそく頂くと、それは、それは、とても美味しかった。ピザは幸恵の大好物の一つだ。なので、またまた幸恵の顔は大満足の表情になった。

そして、さっきの腹に銅版を巻いて弱い電流を流し自殺を図った男のことだが、彼の名前は「尚之」という。昔から画家を志ていて、この頃、流行っていた伝言ダイヤルなるもので幸恵と知り合い、それ以来、交流を深めて行ったという。だが、櫂自身が四六時中、この二人が会う時に一緒にいた訳ではないので、どのような会話をしたり、またどのような場所に二人が行ったのかは知る由もない話なのは当然のことだ。したがって、幸恵とこのさっき自殺未遂を図ったばかりの尚之という男が、何処までの関係なのかも櫂には推理のしようがない。ただ、分かっているのは、この男が昔から画家を目指し、某美術大学へ進学するほど美術が好きだということだ。

そのような志のあるまともで立派な男がたかが、女性に失恋したくらいで自殺を図るものだろうか?本当にただの失恋が原因だったのだろうか?それは、考えれば考えるほど深みに嵌るループの法則にも似ている。一体、本当は彼に何があったのか?櫂はまるで推理小説を読む悪戯な少年のようにその心はわくわくドキドキしていた。

櫂も絵は好きだが美術大学には行かなかった。そして、そのような仕事に就くこともなかった。漫画家や画家になりたいと思ったことは何度もあるが、何故かいざ就職先を選ぶ場面になると色々他にやりたいことが見つかってしまって、心に迷いが生じてしまったのだ。学生時代、油絵の成績はトップだった。なので、絵を仕事にすることに普通なら迷うことなどないはずなのだ。なのに、櫂は就職先を決める時点で非常に迷い、結局、あれほど目指していて夢だった絵の仕事を選ぶことを止めたのだった。

それは、誰に邪魔された訳でも止められた訳でもなかった。自然に己の心が己自身に命じたようだった。『絵を描く仕事を選ぶのは止めろと・・・』

「私ね、ここの家賃高いから払うの大変なんだぁ、ねぇ、あなたに協力して欲しいの・・」「ここの家賃はいくらなの?」今、羽振りが良い櫂にとって、幸恵に家賃が幾らか聞くのは、もちろん、都合が付けば何とかしてあげたいという気持ちがあるからだった。「うぅんとねぇ、ここの家賃は12万8千円だよ!だから、半額の7万円だけでも何とかならないかなぁ~!」「結構すごい金額だね!」「うん、だから、もちろん、一緒に住んだって良いよぉ~!」「そうだけど半額は、6万4千円じゃないかな?計算してみて!」「いいじゃん!そんなの年上の方が多く払うの当たり前ジャン、だって年上でしょ~!」

確かにそう言われてみれば、櫂のほうが、幸恵より年上だ。しかし、だからといって、そう易々と、まだ本当に一緒に暮らすとも決まっていないのに家賃の半額以上を払おうことをOKして良いものだろうか?そういう迷いが走馬灯のようにその時櫂の脳裏に巡っていた。

「そうだねぇ、本当に一緒に暮らすことになったらそうするね!」「ええ、良いよ幸恵ちゃんは櫂ちゃんと一緒に住みたいよ!」「ううん、でもここマンション8畳のワンルームでしょ、二人も住んだら窮屈じゃないかな?」「そんなことないよ、一応8畳もあるから、充分、二人で住めるよ!」「でも、何か物が多くて、すごく狭く感じない?」「それだったら、これからきちんと片付けて綺麗にするからさぁ、私、こう見えても掃除は得意なのよ!」

それは、信じられない発言だった。これほどまでに物が散乱して猥雑な状態な部屋に住みながら、掃除が得意とはあまりにも意外な言葉だ。

しかし、嘘のような本当の話だが、そう言い切った後、すぐに幸恵はスクッと立ち上がり、その後テキパキと部屋の掃除をこなしたのだから、それは褒めるべきことに値するだろう。見事部屋は綺麗に整列したからだ。しかも、それほど時間は掛かっていない。

それから、スッカリ片付いて綺麗になった部屋でジュースを紙コップに注ぐと櫂にも紙コップを私自分も飲んだ。その次に“じゃらん”という雑誌を部屋の隅から取り出すと、しきりに「スキーに行きたい!」と騒ぎ出した。

それを宥めるように櫂は、幸恵にこう言った。「僕が今度連休で休みを取れたらスキーに一緒に行こう!」「わぁ~嬉しい、じゃあ、連れて行ってくれるのね!」「うん、もちろんだよ!だけど連休が取れたらだよ!」「うん、じゃあ、楽しみにているね!」「うん、一応期待して待っていてね、多分、連休もらえると思うから!」

幸恵のマンションの部屋には沢山の物があり、さっきまで散乱していてバラバラになってあちこちに転がっていた物が今は嘘のように綺麗に片付いているから不思議だ。どうやら幸恵は部屋を汚すのも大好きだが掃除も大好きだという極端から極端に走る行動や趣味の持ち主だと思える。

そして、部屋のあるコーナーには平べったい長四角の少し大きめの金属製の箱のような物が置いてあった。それは、よく見ると日曜大工の簡易セットのようだった。中にはきっとペンチやスパナやドライバーが入っているのだろう。どれも、大工仕事には必需品だが間違って使用すると簡単に凶器に変わってしまうものばかりだ。

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【2010/02/25 21:18 】 | 小説 | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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